
目次
総説
血液中の脂質には、悪玉LDLコレステロール、善玉HDLコレステロール、中性脂肪(トリグリセライド/TG)が含まれています。そのため、脂質異常症は高LDLコレストロール血症、低HDLコレステロール血症、高トリグリセライド血症の3つのタイプに分けられます。発症には、過食、運動不足、肥満、喫煙、過度な飲酒、ストレスなどが関係しています。この状態を放置していると動脈硬化が進行し、脳梗塞や心筋梗塞などのリスクが高まります。
分類
原発性脂質異常症は、遺伝子異常や環境要因によって引き起こされ、特に家族性高コレステロール血症が代表的です。続発性脂質異常症は、他の疾患や薬剤の副作用によって引き起こされ、糖尿病や甲状腺機能低下症などが原因となることが多いです。 両者の判断は、血清脂質の測定や疾患の鑑別診断に基づいて行われます。
続発性脂質異常症でよくみられる基礎疾患としては、
糖尿病・甲状腺機能低下症・クッシング症候群・先端巨大症・褐色細胞腫、肥満(特に内臓脂肪型肥満)などの内分泌疾患、
ネフローゼ症候群・慢性腎不全などの腎疾患、閉塞性黄疸・原発性胆汁性肝硬変・原発性肝癌などの肝疾患
副腎皮質ステロイド薬・経口避妊薬などの薬剤使用。
診察時に以下の項目の確認が必要です。続発性脂質異常症は、原因を治療もしくは取り除くことにより多くが改善します。
| 問診項目 | 確認内容 |
| 家族歴 | 心血管疾患、脂質異常症の有無 |
| 既往歴 | 糖尿病、甲状腺疾患、腎臓病など |
| 服薬状況 | ステロイド薬、利尿薬などの使用 |
| 生活習慣 | 食事内容、運動習慣、飲酒、喫煙 |
診断基準
| 脂質の種類 | 測定値 | 疾患名 |
|---|---|---|
| LDLコレステロール | 120~139 | 境界域高LDLコレステロール血症 |
| 140以上 | 高LDLコレステロール血症 | |
| Non-HDLコレステロール | 150~169 | 境界域高Non-HDLコレステロール血症 |
| 170以上 | 高Non-HDLコレステロール血症 | |
| HDLコレステロール | 40未満 | 低HDLコレステロール血症 |
| 中性脂肪(トリグリセライド/TG) | 150以上 | 高トリグリセライド血症 |
※Non-HDLコレステロールは、総コレステロールから善玉のHDLコレステロールの数値を引いた値です。
※いずれもの単位はmg/dl。
治療
食事療法・運動療法・薬物治療の3つがあります。一般的に、まずは3~6か月の食事療法と運動療法を用いた生活習慣の改善を行います。生活習慣の改善を行っても、値が目標値に至らない場合、また動脈硬化や狭心症などの危険性が高いと判断された場合、薬物療法が検討されます。タイプ別に異なる薬を処方します。
食事療法・運動療法
○禁煙し、受動喫煙を回避する
○過食と身体活動不足に注意し、適正な体重を維持する
○肉の脂身、動物脂、鶏卵、果糖を含む加工食品の大量摂取を控える
○魚、緑黄色野菜を含めた野菜、海藻、大豆製品、未精製穀類の摂取量を増やす
○糖質含有量の少ない果物を適度に摂取する
○アルコールの過剰摂取を控える
○中等度以上の有酸素運動を、毎日合計30分以上を目標に実施する
薬物療法
高LDLコレステロール血症
- ストロングスタチン
アトルバスタチン(リピトール):1日1回5mg〜10mg
ロスバスタチン(クレストール):1日1回2.5mg〜5mg
ピタバスタチン(リバロ):1日1回1mg〜4mg - スタンダードスタチン
シンバスタチン(リポバス):1日1回5mg〜20mg
プラバスタチン(メバロチン):1日1〜2回10mg
フルバスタチン(ローコール):1日1回20mg - 小腸コレステロール吸収抑制薬
エゼチミブ(ゼチーア) - 配合錠
アトーゼット配合錠
LD ゼチーア10mg/リピトール10mg
HD ゼチーア10mg/リピトール20mg
ロスーゼット配合錠
LD エゼチミブ10mg/ロスバスタチン2.5mg
HD エゼチミブ10mg/ロスバスタチン5mg
高トリグリセライド血症
- ペマフィブラート(パルモディア):1日2回 0.1~0.4mg
- ベザフィブラート(ベザトールSR):1日2回 朝夕食後に計400mg
- フェノフィブラート(リピディル):1日1回 食後に106.6~160mg
EPA/DHA製剤(魚油由来の脂肪酸)
- イコサペント酸エチル(エパデール):1日2~3回食直後に計1800mg
〈閉塞性動脈硬化症に伴う潰瘍、疼痛および冷感の改善〉1回600mgを1日3回、毎食直後に経口投与する。
〈高中性脂肪血症〉成人1回900mgを1日2回又は1回600mgを1日3回、食直後に経口投与する。最大1回900mg、1日3回まで増量できる。 - オメガ-3脂肪酸エチル(ロトリガ):1日1回 食直後に2g
リスク区分別脂質管理目標値
| 治療方針の原則 | 管理区分 | 脂質管理目標値(mg/dL) | |||
| LDL-C | Non-HDL-C | TG | HDL-C | ||
| 一次予防 まず生活習慣の改善を行った後、薬物療法の適用を考慮する |
低リスク | <160 | <190 | <150 | ≧40 |
| 中リスク | <140 | <170 | |||
| 高リスク | <120 | <150 | |||
| 二次予防 生活習慣の是正とともに薬物治療を考慮する |
冠動脈疾患の既往 | <100 (<70)* |
<130 (<100)* |
||
*:家族性高コレステロール血症、急性冠症候群の時に考慮する。糖尿病でも他のリスク病態(非心原性脳梗塞、末梢動脈疾患、慢性腎臓病、メタボリックシンドローム、主要危険因子の重複、喫煙)を合併するときはこれに準ずる。
●一次予防における管理目標達成の手段は非薬物療法が基本であるが、低リスクにおいてもLDL-Cが180mg/dL以上の場合は薬物療法を考慮するとともに、家族性高コレステロール血症の可能性を念頭においておくこと。
●まずLDL-Cの管理目標値を達成し、その後non-HDLの達成を目指す。
●これらの値はあくまでも到達努力目標値であり、一次予防(低・中リスク)においてはLDL-C低下率20~30%、二次予防においてはLDL-C低下率50%以上も目標値となり得る。
●高齢者(75歳以上)については、ガイドライン第7章を参照。




