骨粗鬆症
骨粗鬆症
現在世界中に用いられている骨粗鬆症の定義は2000 年のNIH(米国国立衛生研究所)コンセンサス会議で提唱されたもので、以下の3点で構成されています。
①骨粗鬆症とは、骨強度の低下を特徴とし、骨折のリスクが増大する骨格疾患である。
②骨強度は骨密度と骨質の二つの要因からなり、骨強度のほぼ 70%は骨密度により、残りの 30%は骨質により説明される。
③骨質は、骨構造、骨代謝回転、微細損傷の集積及び骨組織の石灰化等により規定される。
一方でこの定義にあてはまる病態の原因は多彩であり、それらを考慮に入れた診療が必要となる。
骨粗鬆症では骨強度(=骨密度+骨質)の低下による骨脆弱性亢進により骨折危険性が増大し、軽微な外力で骨折を引き起こします。
① 脆弱性骨折(の既往、外傷機転がはっきりしない例もある)
② 健診・検診などでの低骨密度値
③ 腰背部痛(高齢者では骨脆弱であり、骨折を疑う)
④ 身長低下(25歳頃に最大身長に比して4cm以上の低下)
⑤ 女性では月経(初潮時期、順調か不整か、閉経時期・早期閉経か)、出産直後なら生理再開しているか、授乳中か。子どもの有無
⑥ 臨床的危険因子(年齢〈高齢〉、BMI低値、両親の大腿骨近位部骨折の既往、関節リウマチ、嗜好:現在の喫煙やアルコールの過剰摂取)の有無
⑦ 食事内容(偏食、食物アレルギーの有無)
⑧ 運動習慣の頻度と程度
⑨ 低骨密度(骨量)や続発性骨粗鬆症を来し得る疾患や治療(糖尿病、腎疾患、肝疾患、脳血管障害による麻痺〈身体機能〉の有無と治療薬としてステロイド、抗凝固薬などの使用の有無とその状況)
骨粗鬆症を基盤とする脆弱性骨折部位では脊椎椎体骨折が最も多く、大腿骨近位部(頸部/転子部骨折)がそれに次ぐ。そのほか、橈骨遠位骨折、上腕骨頸部骨折があり、骨脆弱高度例では骨盤(恥骨、坐骨、仙骨)がみられる。高度な骨粗鬆症では軽微な外力で骨折を生じ、外傷機転がはっきりしない例(本人が骨折を生じたことを意識していない)や、寝たきり高齢者のオムツ交換時に容易に骨折を来す例もあることに留意する。
骨粗鬆症は原因によって「原発性」と「続発性」に分けられます。
「原発性」は主に閉経や加齢などによって起こるもの、「続発性」は骨密度を低下させる他の疾患や薬剤によって起こるものをいいます。
原発性骨粗鬆症は、閉経後骨粗鬆症と男性骨粗鬆症で約90%を占めます。
「続発性骨粗鬆症」の原因
・内分泌性:副甲状腺機能亢進症、甲状腺機能亢進症、性腺機能低下症、クッシング症候群
・栄養性: 炎症性大腸疾患による吸収不良症候群、胃切除後、神経性食欲不振症、ビタミンAまたはD過剰、ビタミンC欠乏症
・薬物性:ステロイド薬、性ホルモン低下療法治療薬、SSRI、そのほか(ワルファリン、メトトレキサート、ヘパリンなど)
・長期間の不動:臥床安静、対麻痺、廃用症候群、宇宙旅行、
・疾患性:糖尿病、関節リウマチ、慢性腎臓病、肝疾患、アルコール依存症、慢性閉塞性肺疾患
骨粗鬆症の検査には骨密度測定、X線検査、骨代謝マーカーの測定があります。
原発性骨粗鬆症は、骨折の有無と骨密度によって診断されますが、骨密度は腰椎または大腿骨近位部で測定する必要があります。
また、脆弱性骨折のなかでも椎体骨折は本人が自覚していない場合もあるため、X線検査が必要です。
原発性骨粗鬆症の診断基準(2012 年度改訂版)
低骨量をきたす骨粗鬆症以外の疾患または続発性骨粗鬆症を認めず,骨評価の結果が下記の条件を満たす場合,原発性骨粗鬆症と診断する。
I.脆弱性骨折(注1)あり
1.椎体骨折(注2)または大腿骨近位部骨折あり
2.その他の脆弱性骨折(注3)があり,骨密度(注4)が YAM の 80%未満
II.脆弱性骨折なし
骨密度(注4)が YAM の 70%以下または-2.5SD 以下
YAM:若年成人平均値(腰椎では 20~44歳,大腿骨近位部では20~29歳)
注 1 軽微な外力によって発生した非外傷性骨折。軽微な外力とは,立った姿勢からの転倒か,それ以下の外力をさす。
注 2 形態椎体骨折のうち,3分の 2は無症候性であることに留意するとともに,鑑別診断の観点からも脊椎 X線像を確認することが望ましい。
注 3 その他の脆弱性骨折:軽微な外力によって発生した非外傷性骨折で,骨折部位は肋骨,骨盤(恥骨,坐骨,仙骨を含む),上腕骨近位部,橈骨遠位端,下腿骨。
注 4 骨密度は原則として腰椎または大腿骨近位部骨密度とする。また,複数部位で測定した場合にはより低い%値または SD値を採用することとする。腰椎においては L1~L4または L2~L4を基準値とする。ただし,高齢者において,脊椎変形などのために腰椎骨密度の測定が困難な場合には大腿骨近位部骨密度とする。大腿骨近位部骨密度には頸部または total hip(totalproximal femur)を用いる。これらの測定が困難な場合は橈骨,第二中手骨の骨密度とするが,この場合は%のみ使用する。表3に日本人女性における骨密度のカットオフ値を示す。
付 記
正常 |
骨量減少 |
骨粗鬆症 |
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YAM%評価 | 80%以上 | 79 ~ 71% | 70%以下 |
T スコア評価 | -1以上 | -1 ~ ‐2.5の間 | ‐2.5以下 |
骨粗鬆症を未然に発見し、骨折を防ぐことが非常に重要です。
予防としては、
・カルシウム、ビタミンD・K、リン、マグネシウムをしっかり摂るように食事に注意する。
(牛乳・魚・納豆・海藻など)
・喫煙している方は禁煙し、アルコールは控えめにする。
・散歩などの運動、日光浴をする。
以上が大切です。
女性の方は閉経後にホルモンバランスが変化し骨粗鬆症を引き起こしやすいので特に予防をこころがけることが必要です。
症状がない方も、定期的な骨密度測定をお勧めします。採血検査でも骨密度と骨代謝の評価は可能です。
骨粗しょう症の治療薬には大きく分けて①骨吸収抑制薬、②骨形成促進薬、③骨吸収抑制・骨形成促進の両方の作用を持つ薬剤、④そのほかにの4種類があります。
薬剤、特徴 | ||
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骨吸収抑制
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SERM |
●エビスタ錠(60mg) 1回1錠 1日1回[ラロキシフェン] ※骨のエストロゲン受容体に選択的に作用することで骨吸収を抑制します。閉経後まもない例などに使用。注意点として、頻度は非常に稀ですが静脈血栓塞栓症が挙げられます。 |
ビスホスホネート |
●ボナロン上錠(35mg) 1回1錠 週1回。点滴静注月に1回900µg。[アレンドロン酸] ※顎骨壊死、非定型大腿骨骨折、低カルシウム血症、急性期反応に注意する。近年、BPの長期投与と大腿骨非定型骨折や顎骨壊死の関係が報告されています。骨粗鬆症の治療効果を判定しつつ、他剤への変更や休薬も選択されます。 |
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抗RANKL抗体薬 |
●プラリア皮下注(60mg) 1回60mg 6カ月1回 [デノスマブ] ※注意点として、血中のカルシウム濃度が低下し手足の震えや痙攣が起こることがあります。定期的な血液検査が必要です。 |
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骨形成促進(骨吸収促進)薬 |
副甲状腺ホルモン薬(テリパラチド) |
●フォルテオ皮下注 1回20µg 1日1回(自己注射)24カ月間 ※骨形成、代謝回転を高めることを目指し、骨折の危険性の高い症例に。治療中の注意点として、投与可能期間が2年間のみである。 ※悪性腫瘍既往者にはその適応を慎重に検討する。またカルシウム剤との併用では高カルシウム血症に注意する。 |
骨形成促進+骨吸収抑制 |
抗スクレロスチンモノクローナル抗体製剤 |
●イベニテイ皮下注(105mg) 1回210mg 月1回 12カ月間[ロモソズマブ] ※骨折の危険性の高い症例に ※注意点としては、比較的新しい(1年以内の)心筋梗塞や狭心症・脳梗塞などの持病をお持ちの方は、それらの病状を悪化させる危険性があるため、投与は控えます。また、血性カルシウム濃度が下がる可能性があるため、定期的な採血検査が必要です。 |
その他 |
ビタミンD |
●エデイロールカプセル(0.75µg) 1回1カプセル 1日1回[エルデカルシトール] ※ビタミンD不足者への基本的な薬剤として、またビスホスホネートなどとの併用として使用。筋肉量維持や転倒予防に対する効果も注目さえています。 ※高カルシウム血症、腎機能障害に注意する。 |
ビタミンK |
●グラケーカプセル(15mg)1回1カプセル 1日3回[メナテトレノン] 腰痛や背中の痛みが改善するとともに、骨密度の増加や骨折予防効果も期待できます。 ※抗凝固薬としてよく使用される「ワルファリンカリウム(ワーファリン)」との併用は原則としてできません(ただし、ワルファリン投与中におこる低トロンビン血症の場合などはのぞきます)。 |
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ビタミンD+カルシウム+カルシウム |
●デノタスチュアブル配合錠 1日1回2錠 ※プラリア投与に伴う低カルシウム血症の治療及び予防に使用される。2錠にカルシウムとして約600mg、天然型VDとして400IUを含まれている。 |