
認知症とは
認知症は、さまざまな病気によって脳の認知機能が低下し、日常生活に支障が生じる状態です。「最近、物忘れが増えた」「同じことを何度も聞く」「薬の管理が難しくなった」「以前より怒りっぽくなった」などの変化は、認知症の初期症状かもしれません。認知症は高齢者に多くみられますが、65歳未満で発症する若年性認知症もあります。また、物忘れの原因がすべて認知症とは限りません。うつ病、甲状腺機能低下症、ビタミンB12欠乏症、薬剤の影響など、治療によって改善が期待できる病気が隠れている場合もあります。「物忘れが増えた、同じことを繰り返す、性格が変わったと感じたら」ぜひ早めに受診してください。早期に原因を調べ、適切な治療や生活支援につなげることが大切です。
認知症の原因と危険因子
認知症の発症には、年齢、遺伝的要因、生活習慣、血管の健康状態など、さまざまな要因が関係します。特に次のような要因が認知症のリスクと関連しています。
- ・高血圧
- ・糖尿病
- ・脂質異常症
- ・肥満
- ・喫煙
- ・過度の飲酒
- ・運動不足
- ・難聴
- ・社会的孤立
- ・うつ症状
- ・睡眠障害
これらの危険因子を適切に管理することは、認知症の発症リスクを減らすうえで役立つ可能性があります。
軽度認知障害(MCI)とは?
MCIは、年齢相応より認知機能が低下しているものの、日常生活の自立が概ね保たれている状態です。MCIの方がすべて認知症に進行するわけではありません。原因によっては改善する場合や、長期間状態が変わらない場合もあります。MCIの段階で、認知機能の評価、生活習慣病の管理、運動習慣の改善などに取り組むことが大切です。
加齢による物忘れと認知症の違い
年齢を重ねると、誰でも物忘れが増えることがあります。しかし、加齢による物忘れと認知症では、忘れ方や日常生活への影響に違いがあります。
| 比較項目 | 加齢による物忘れ | 認知症でみられる物忘れ |
|---|---|---|
| 忘れ方 | 出来事の一部を忘れる | 出来事そのものを忘れることがある |
| ヒント | 思い出せることが多い | ヒントがあっても思い出せないことがある |
| 自覚 | 本人が気づきやすい | 自覚が乏しい場合がある |
| 日常生活 | 大きな支障は少ない | 生活に支障が生じる |
| 経過 | 比較的緩やか | 原因によって進行することがある |
※これらは一般的な傾向であり、この表だけで認知症を診断することはできません。
初期症状
認知症の症状は、記憶障害だけではありません。次のような変化がみられることがあります。
- ・同じ話や質問を何度も繰り返す
- ・最近の出来事を忘れる
- ・約束や予定を忘れることが増える
- ・財布や鍵などを頻繁になくす
- ・料理や買い物、金銭管理が難しくなる
- ・日付や場所が分からなくなる
- ・慣れた道で迷う
- ・薬の飲み忘れや飲み間違いが増える
- ・怒りっぽくなる、不安が強くなる
- ・趣味や外出への関心が低下する
これらの症状があっても、必ずしも認知症とは限りません。日常生活への影響や症状の経過を含めて評価することが重要です。
主な種類
1.アルツハイマー型認知症
認知症の原因として最も多いです。脳内にアミロイドβやタウなどの異常なタンパク質が蓄積し、神経細胞の機能が障害されることなどが関係しています。主な症状は、最近の出来事を忘れる記憶障害です。進行すると、時間や場所が分からなくなる、判断力が低下する、日常生活の動作が難しくなるなどの症状が現れます。
2.血管性認知症
脳梗塞や脳出血など、脳の血管の病気が原因となる認知症です。注意力や判断力の低下、歩行障害などがみられることがあります。高血圧、糖尿病、脂質異常症、喫煙などの管理が重要です。
3.レビー小体型認知症
脳内にレビー小体という異常なタンパク質の集まりが生じる病気です。主な特徴には、次のようなパーキンソンニズムににている症状があります。
- ・認知機能や注意力の変動
- ・実際にはないものが見える幻視
- ・手足の動きが遅くなる、筋肉が硬くなる
- ・睡眠中に大声を出したり、手足を動かしたりする
薬剤に対する過敏性がみられる場合があり、治療薬の選択には注意が必要です。
4.前頭側頭型認知症
脳の前頭葉や側頭葉の機能が障害される病気です。初期には物忘れよりも、性格や行動の変化、社会的な判断力の低下、言葉の障害などが目立つ場合があります。
認知症の検査と診断
認知症の診断では、症状の経過、日常生活への影響、認知機能、身体疾患などを総合的に評価します。
問診
ご本人やご家族から、物忘れの内容、症状が始まった時期、生活上の困りごとなどを確認します。
認知機能検査
必要に応じて、以下のような検査を行います。
- 長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)
- MMSE(Mini-Mental State Examination)
これらは認知機能を評価するための検査であり、点数だけで認知症を確定診断するものではありません。
血液検査
認知機能低下の原因や関連する病気を調べるため、必要に応じて次の項目を確認します。
- ・血算(貧血など)
- ・甲状腺機能(TSH、FT4)
- ・ビタミンB12
- ・血糖値・HbA1c
- ・肝機能・腎機能
- ・電解質
頭部画像検査
脳萎縮、脳梗塞、慢性硬膜下血腫、正常圧水頭症などを調べるため、必要に応じて頭部CTやMRIを検討します。
専門的な検査が必要な場合には、適切な医療機関と連携します。
認知症の治療
認知症の治療は、原因となる病気や症状、進行度に応じて行います。
1.薬物療法
アルツハイマー型認知症では、症状や病期に応じて次のような薬剤を使用する場合があります。
| 薬剤 | 主な作用 |
|---|---|
| ドネペジル | アセチルコリンの分解を抑える |
| ガランタミン | アセチルコリンの働きを高める |
| リバスチグミン | アセチルコリンなどの分解を抑える |
| メマンチン | グルタミン酸による神経への過剰な刺激を調整する |
これらの薬剤は、認知症を完全に治すものではありませんが、症状の進行や日常生活への影響を緩和することが期待されます。また、早期アルツハイマー病の一部の患者さんでは、抗アミロイドβ抗体薬(レカネマブ、ドナネマブなど)が治療選択肢となる場合があります。これらの治療には、専門的な診断、適応評価、MRIによる副作用の監視などが必要であり、実施可能な専門医療機関で判断されます。
2.非薬物療法
認知症の治療では、薬だけでなく、生活環境の調整や日常活動の維持も重要です。
- ・定期的な運動
- ・散歩や軽い体操
- ・趣味活動
- ・家族や友人との交流
- ・認知刺激活動
- ・規則正しい生活
- ・睡眠環境の改善
- ・安心して過ごせる生活環境づくり
ご本人ができることを維持しながら、無理なく日常生活を続けられるよう支援します。
⑧ 認知症を予防するための生活習慣
認知症を確実に予防する方法はありませんが、生活習慣の改善によって発症リスクを減らせる可能性があります。
- ・適度な運動
- ・バランスの良い食事
- ・生活習慣病の管理
- ・社会的な交流
- ・良質な睡眠
認知症の方への家族の接し方
認知症の方への対応では、安心感を与え、本人の尊厳を守ることが大切です。
- ・同じことを何度も聞く場合→強く叱ったり否定したりせず、落ち着いて短い言葉で説明しましょう。
- ・物をなくした場合→本人を責めるのではなく、一緒に探し、物の置き場所を決めるなどの工夫をしましょう。
- ・不安や混乱が強い場合→静かな環境を整え、安心できる声かけを心がけましょう。
- ・できないことが増えた場合→すべてを代わりに行うのではなく、本人ができることを維持できるよう支援しましょう。
ご家族だけで抱え込まず、医療機関や地域包括支援センター、介護保険サービスなどを活用することも重要です。
こんな症状があればご相談ください
- ・最近、物忘れが目立つようになった
- ・同じ話や質問を繰り返す
- ・薬の管理が難しくなった
- ・お金の管理や買い物が難しくなった
- ・日付や場所が分からなくなる
- ・性格や行動が以前と変わった
- ・家族が認知症を心配している
- ・認知症の薬について相談したい
なお、急に意識や認知機能が悪化した場合は、せん妄、脳卒中、感染症などの可能性があります。突然の麻痺、言語障害、意識障害を伴う場合は、速やかな救急受診が必要です。
湊川ファミリークリニックでの認知症診療
当院では、物忘れや認知機能の低下について、ご本人とご家族のお話を伺いながら診療を行っています。認知症が疑われる場合には、症状や生活状況を確認し、必要な検査や治療方針を検討します。また、高血圧、糖尿病、脂質異常症など、認知機能の低下に関連する生活習慣病の管理にも取り組んでいます。必要に応じて専門医療機関や介護・福祉サービスと連携し、ご本人とご家族が安心して生活を続けられるよう支援します。院長は認知症サポート医です。湊川ファミリークリニックでは、認知症の早期発見と適切な治療・生活支援を大切にしています。
「年齢のせいだから仕方がない」と考えず、物忘れや生活上の変化が気になる場合は、お早めにご相談ください。




